はじめに
進化するセラミック修復の世界
近年、歯科補綴分野ではセラミック材料の進化とともに、CAD/CAMシステムの導入が加速し、従来の手作業による築盛法との併用や選択が日常臨床で求められるようになってきました。高い審美性と機能性が求められるセラミック修復において、CAD/CAMと手作業築盛の使い分けは、治療の質を左右する重要な要素です。本稿では、それぞれの特徴と適応、使い分けの基準、臨床での活用事例を交えながら、歯科医師および技工士の連携によって実現される高精度な修復について考察します。
CAD/CAMによるセラミック修復の特徴
短時間で高精度な補綴物を製作可能
CAD/CAM(Computer Aided Design / Computer Aided Manufacturing)は、口腔内スキャナーや模型スキャナーによって得られた3Dデータを基に、セラミックブロックを削り出すことで補綴物を製作します。最大の特徴は、短時間で精度の高い補綴物を提供できる点にあります。
一貫性のある形態と咬合の再現
CADソフトウェアには、ライブラリベースの歯列デザインが搭載されており、個々の歯の形態や咬合関係を一定の品質で再現できます。これにより、補綴物の均質化が図られ、技工士の技量に依存しない一定品質の提供が可能になります。
モノリシック修復による破折リスクの軽減
ジルコニアやe.maxなどを使用したフルカバータイプのモノリシック修復は、築盛タイプと比較して層間剥離やチッピングといったトラブルが少なく、長期的な耐久性に優れる点もメリットの一つです。
手作業による築盛法の特徴
自然歯に近い審美性の再現
築盛法とは、フレーム上に陶材を一層一層築いていく手作業による技工工程であり、透明感・蛍光性・乳白感など、天然歯特有の複雑な色調や質感を再現することが可能です。特に前歯部の審美修復においては、患者の表情や光の反射による微妙な変化を考慮する必要があり、築盛技術の有無が仕上がりの大きな差となります。
個別対応の柔軟性
手作業による築盛では、隣在歯との調和や患者の年齢・性別・顔貌とのバランスを微細にコントロールすることができます。これにより、「その人らしさ」を残した補綴が可能となり、単なる歯の修復ではなく、顔貌全体の調和に貢献します。
技工士の審美感と経験が品質を左右
築盛には高度な技術と経験、そして審美感覚が求められます。逆に言えば、技工士の力量によって仕上がりのばらつきが出る可能性もあるため、歯科医師との密な連携と症例に応じた情報提供が重要になります。
適応の使い分けと臨床判断
部位別による使い分け
臼歯部では強度と咬合力への耐性が重視されるため、モノリシックジルコニアなどのCAD/CAM修復が適しています。一方、前歯部やスマイルラインに大きく関わる部位では、色調再現や形態の繊細さを求めて築盛を選択するケースが多くなります。
患者ニーズに応じた選択
「とにかく早く治療を終えたい」「費用を抑えたい」という患者に対しては、CAD/CAMによる即日修復が効果的です。一方で、「とにかく自然な歯にしてほしい」「写真写りを気にしている」といった審美性重視のニーズには築盛が適しています。
咬合・対合歯との関係性
咬耗や対合歯への影響を考慮し、モノリシックジルコニアの使用を避けたい場面(たとえば金属修復との接触や天然歯との接触がある場合)では、より低摩耗性の素材や築盛陶材を用いる判断が求められます。
臨床でのハイブリッド活用の実例
CAD/CAMによる下地+築盛による表面表現
最近では、CAD/CAMで作成したジルコニアフレームの上に、手作業で陶材を築盛するハイブリッド方式が増えています。これにより、フレームの強度を確保しながら、審美面での自由度も維持することができます。
プロビジョナル段階でのCAD/CAM活用
プロビジョナルクラウンや仮歯の段階でCAD/CAMを用い、形態や咬合の評価を行った上で、最終補綴物に築盛を採用するという段階的アプローチも可能です。これにより、患者の満足度を高めながら治療の成功率を向上させることができます。
歯科技工士との連携の重要性
正確な情報伝達とケース別設計
症例ごとに「どこまでをCAD/CAMで仕上げるのか」「どこから築盛とするのか」の判断は、設計段階で明確にしておく必要があります。歯科医師と技工士が密に連携し、シェードガイドや口腔内写真、ワックスアップモデルなどの情報を詳細に共有することが高品質な補綴物の前提です。
院内ラボの有無による差
院内に技工士が常駐している環境では、治療当日に仮合わせや色調確認が可能となり、CAD/CAMのスピードと築盛のクオリティを組み合わせた即日補綴も実現可能です。このような環境では、CAD/CAMと築盛の「融合」がより現実的かつ臨床的価値を持ちます。
まとめ
症例に応じた最適な技法選択が鍵
セラミック修復におけるCAD/CAMと手作業築盛は、それぞれに明確な利点が存在し、どちらが優れているという単純な比較はできません。治療部位、患者の審美要求、咬合状況、予算、治療期間などを総合的に判断し、最も適した技法を選択することが、歯科医師として求められる判断力です。
テクノロジーと職人技の融合
今後さらにデジタル技工が発展していく中で、CAD/CAMと築盛の融合技術は進化を続け、より高度な審美修復の実現が期待されます。歯科医師と技工士が互いの強みを理解し、連携を深めることで、患者にとって最善の補綴物を提供することができるのです。
ブランパ歯科は上記のうちの院内ラボです、実際に製作に携わる歯科技工士とも意見交換し、ご自身のお顔に合った表情を大切にしています。
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