デジタルが変える歯科治療〜CAD/CAM技術の可能性と限界〜

近年、歯科の世界において「CAD/CAM(キャドキャム)」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、コンピュータ支援設計(Computer Aided Design)およびコンピュータ支援製造(Computer Aided Manufacturing)を意味し、歯科補綴の分野にも急速に広がりを見せています。
従来、歯の詰め物や被せ物は、歯科技工士の手作業によって一つひとつ作られていましたが、現在ではコンピュータと加工機械による自動化・高速化が可能となり、歯科医療の効率と精度が飛躍的に向上しました。
本稿では、CAD/CAM技術がもたらす歯科治療の変革とその利点、そして機械化では対応しきれない“限界”について、あらためて整理していきます。
CAD/CAM技術とは?
CAD/CAMは、スキャナーで得られた歯型や口腔内の3Dデータをもとに、専用ソフトで設計し、ミリングマシンなどの加工装置によって補綴物(クラウンやインレー、ブリッジなど)を製作する一連のシステムです。
この技術は工業分野で古くから活用されてきましたが、歯科の分野では特に近年、セラミックやジルコニアなどの材料に対応した加工機の普及により急速に発展しています。

CAD/CAM技術のメリット
1. 治療の迅速化と患者の負担軽減
従来、補綴物の製作には歯科技工所への依頼と複数の工程が必要で、完成までに1週間以上かかることもありました。CAD/CAMでは、院内でスキャンから加工までを一貫して行えるため、最短で「即日修復」も可能です。これにより、仮歯の装着や来院回数を減らすことができ、患者の通院負担も軽減されます。
2. 高い精度と一貫性
コンピュータ制御によるミリング加工は、一定の精度と再現性があり、歯型に忠実な補綴物の作成が可能です。手作業による“ばらつき”を抑えることができる点も大きな利点です。
3. 感染対策・清潔性
口腔内スキャナーによるデジタル印象採得では、従来のシリコン印象材を使わないため、不快感や誤差を軽減できると同時に、材料の使い回しや輸送中の汚染リスクも回避できます。院内でデータを完結できることは、感染管理の面でも優れています。
4. 材料の進化と強度の確保
CAD/CAM用のセラミックブロックやジルコニア素材は、加圧焼成などにより均質で高い強度を誇ります。これにより、咬合圧の強い奥歯にも対応でき、長期的な耐久性が期待できます。

しかし、CAD/CAMにも限界がある
CAD/CAMは革新的な技術である一方、すべての補綴物や症例に万能というわけではありません。以下に、現在のCAD/CAM技術が持つ“限界”を整理します。
1. 細部の表現には限界がある
ミリングマシンの切削には物理的な“バー(刃)の太さ”という限界があります。たとえば、鋭角な窩洞(かどう)や複雑な咬頭(こうとう)の形状など、微細な造形はバーの直径より小さく削ることができません。そのため、細部のディテール表現や、噛み合わせの繊細な調整が必要な場合には限界があります。
→このような場面では、熟練した歯科技工士の手による最終仕上げや、アナログ的な調整が重要になります。CAD/CAMで荒削りした後に、人の手で“生きた調整”を加えることで、真にフィットする補綴物が完成するのです。
2. 材料の制限と適応症の選別
CAD/CAMに使用できる材料には限りがあります。ジルコニアやセラミック、ハイブリッドレジンなどは対応していますが、金属製の補綴物(いわゆるメタルクラウン)や、特殊な症例で用いる複雑な合材などには不向きです。
また、ブリッジの支台歯が大きく角度ずれている場合や、重度の咬合異常がある症例では、CAD/CAMの設計通りに補綴物が機能しないこともあります。
3. 咬合・審美面の最終調整には経験が必要
CAD/CAMで設計された補綴物は、理論上は正確でも、実際の咬合(かみ合わせ)環境では違和感や微妙なズレが生じることがあります。これを最終的に調整できるのは、臨床の知識と経験をもった歯科医師や技工士の手作業による調整です。とくに審美歯科領域では、色調の微妙なグラデーションや、歯面の自然なテクスチャーを再現するには、依然として“人の目”と“技”が不可欠です。
4. デジタル機器の導入と管理の負担
CAD/CAMシステムは高額で、導入には初期投資が必要です。また、専用ソフトウェアの操作技術やメンテナンス体制も整える必要があり、すべての歯科医院で即時導入できるわけではありません。

デジタルとアナログの融合が理想の補綴を生む
CAD/CAMは確かに革新的な技術ですが、あくまで“道具”のひとつです。歯科補綴の本質は、患者一人ひとりの咬み合わせ、歯列、顔貌、審美的要求に合わせた個別設計にあります。
そこには、歯科医師の診断力、歯科技工士の職人技、そしてデジタル技術の合理性が三位一体となる必要があります。とくに微細な調整や質感の再現など、現時点ではCAD/CAMだけでは難しい領域にこそ、熟練技工士の手作業による補完が欠かせません。
また、CAD/CAMによって作られた補綴物をより高い次元で活かすためには、スキャン技術の精度向上や、AIを活用した自動咬合設計など、今後の技術革新も期待されます。

まとめ:CAD/CAMは「未来の補綴」の入り口
CAD/CAM技術は、歯科補綴の効率化と標準化に大きく貢献しており、患者にとっても“早く・快適に・美しく”歯を取り戻す手段として非常に有効です。しかし、その万能性を過信することなく、技術の限界を理解したうえで、アナログの力と融合させることで、より質の高い歯科医療が提供できるようになります。
“機械にはできないこと”を補えるのは、やはり人の目と手、そして経験。これからの歯科医療は、デジタルと人の技術が共存する「ハイブリッド時代」へと移行していくでしょう。

 

 

ブランパ歯科ではこのCADCAMと歯科技工士でのハイブリッドを1日で完了するというミッションを世界でもいち早く銀座にて確立し現在に至っています。

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